食卓に上る肉がどのように作られているか、普段どれほどの関心を寄せているだろうか。「畜産動物」の飼育において、日本は世界が次々に廃止している拘束飼育が未だまかり通っている。拘束し、管理し、膨大な数を出荷し、「商品」にする。そこに、命を搾取する側として、どれだけの敬意や思いやりがあるだろうか。
「どうせ殺される命だから、どう扱ってもいい」という考えを、もういい加減見直すべき時だ。
今年は動物愛護法の改正がおこなわれる予定。動物たちの拘束飼育の廃止を。法を変えるのは、消費者の声だ。
文/岡田千尋(アニマルライツセンター代表) 写真/アニマルライツセンター
Text by Chihiro OKADA/Animal Rights Center Photo by Animal Rights Center

1 ニワトリ

ニワトリは本来、卵は巣の中で産みたいという強い欲求を持っている。
排卵は意外と大変な作業で、30分ほど踏ん張って産み落とす。肉食動物に襲われやすいニワトリにとって、卵を産み落とす無防備な時間は、安全な巣の中で過ごさなければ命にかかわるからだ。同じ理由で、夜はできるだけ高い止まり木に止まって眠る。家の屋根くらいの高さまでは登れるし、大きな羽を広げて飛び降りることもできる。
そして彼女たちの至福の時間は太陽の下での砂浴びの時間。「キュウ〜」と喉を鳴らし、気持ちよさそうに目を閉じ、体中に砂をふりかけ、寄生虫や汚れを落とす。人間がワクチンや抗生物質を投与しなくても、彼女たちは自分で自分の健康を保つ方法を知っている。
現在の日本でおこなわれている卵生産のシステムは、ニワトリのこれらの本能をすべて奪っている。
大量消費の日本。その卵、どうやって作られる?
日本人は、年間平均して、一人あたり329個の卵を食べているという。この消費量は、メキシコ、マレーシアに次いで世界第3位。消費される卵(加工品を除く)のうち95パーセントは国内で生産され、それをまかなうため、日本ではいま約1億7600万羽の雌ニワトリ(採卵鶏)が飼育されている。
採卵鶏の99パーセント以上は、バタリーケージという狭い金網のケージに閉じ込められて飼育されている。1羽のニワトリに与えられる面積は自分の体よりも小さく、ほとんど身動きがとれない。一列に並ぶこともできないため、1羽が餌を食べている時、別の1羽は後ろでじっと待機するしかない。身動きがとれないまま長時間も我慢している姿や、仲間に押しつぶされている姿を、私たちもよく見かける。
羽をばたつかせれば金網にぶつかって骨折し、長く伸び切った爪が金網の隙間に挟まれば足を骨折する。足や体のさまざまな場所が腫れあがり、内出血しているニワトリも少なくない。体が隙間に挟まり、動けなくなったまま餓死するニワトリもいる。ケージの中ではやることもなく、彼女たちは、自分の足をつついたり、食べていないのに餌をつつき続けたりという異常行動を起こしている。
ちなみに、オスのニワトリはどうなるのか。採卵鶏を生産するための人工的な箱の中でふ化したヒヨコは、オスメスの鑑別をされ、オスは圧死や窒息死させられたり、シュレッダーでつぶされたりして殺される。一方メスは、ヒヨコ用のバタリーケージで120日育てられてから採卵養鶏場に売られ、再び採卵用のバタリーケージに入れられる。後述するが、日本では何の規制もないこのバタリーケージは、動物たちにとって極めて苦痛が大きいという理由から、EUを始め複数の国や地域ですでに禁止されている。

EUでは禁止。日本では野放しのバタリーケージ飼育
さて、バタリーケージには、ウィンドレス鶏舎・セミウィンドレス鶏舎、開放鶏舎がある。
ウィンドレス鶏舎とは、窓のない鶏舎だ。天井まで4段にも5段にも積み上げられたケージで、1ケージに5〜7羽の採卵鶏を収容し飼育している。ウィンドレス鶏舎の悪いところといえば、まずその空気のひどさだ。糞尿の臭い、ニワトリたちの脂粉、糞が乾燥したホコリなどで、防塵マスクなしでは長くはいられない。それに、「ウィンドレス」とはいえ、野生動物やネズミや猫は入って来られるし、外気の入らない鶏舎では、糞にウジがわきやすい。ウィンドレス鶏舎は鳥インフルエンザを防ぐと誤解されがちだが、日本の鳥インフルエンザの多くが、ウィンドレス鶏舎かセミウィンドレス鶏舎で起きている。大きなファンが設置されているため騒音もひどい。その密閉された薄暗い空間は、すべての動物を精神的に追い詰めるだろう。
一方、自然光の入る開放鶏舎の場合はそのケージの狭さが一番の問題だ。ニワトリは、1羽か2羽ごとのケージに入れられ、ほぼ拘束状態で身動きが取れない。彼女たちは羽根を少しも広げることなく一生を終えるだろう。1羽ごとケージに入れられる場合は仲間との交流すらできない。


いずれの鶏舎も、彼女たちは運動ができない。運動ができなければカルシウムが不足するし、身体機能は弱る。屋内と屋外を自由に行き来できる飼育がされているニワトリと比較すると、ケージに拘束されているニワトリの骨の厚みは、本来の2分の1から3分の1まで薄い。私たちが2016年に保護したニワトリたちも、骨が薄くなりすぎてレントゲンにほとんど写らなかった。
カルシウムが不足する理由はもう一つある。本来ニワトリは年間20個程度しか卵を産まないにも関わらず、採卵鶏として飼育されるニワトリは、品種改変によって、年間300個も卵を生むようになってしまった。カルシウムと栄養素を毎日奪われつづけ、その結果、それらが不足していくのだ。栄養不足のためと、常にケージに羽毛がぶつかり擦り切れるため、羽は折れたり禿げたりしている。首や胸、背中までも肌がむき出しになり、翼である風切羽も骨だけになってしまうニワトリが多い。最後には、ニワトリの本来の姿をもはやしていない。

最期の一日、彼女たちに起きること

卵を産むために酷使された彼女たちは、最期は廃鶏と呼ばれ、殺される。そして彼女たちのその硬くなった肉は、加工食品や冷凍食品(ハンバーグやハム、レトルト食品、スープの素など)、缶詰の肉やペットフードにされる。トサカはヒアルロン酸や保湿材などの化粧品に使われる。ニワトリとしての価値が低い彼女たちは、最期の日まで、まるでゴミのような扱いを受ける。その扱いには思いやりのかけらも見られない。
朝、「集荷」が始まる。それまで閉じ込められてきたケージの扉が開かれた瞬間、足や羽を掴まれ、輸送用コンテナに叩くように投げ込まれる。10秒間に6羽を積み込む速さ。この時に、足や羽を骨折したり、怪我をしていることは明白だ。コンテナの扉に彼女たちの羽や頭が挟まっていても、捕鳥の作業者は、勢いよく扉を閉めてしまう。
一定の時間内にその鶏舎にいる何万羽のニワトリをバタリーケージから取り出さなくてはならないため、作業者には、ニワトリを見ている暇はない。痛みと恐怖、そしてパニック状態に陥ったニワトリたちは、その間、これまで出したことがないであろう悲鳴をあげ続ける。
採卵鶏を殺す「処理場」は数が少ないため、ニワトリたちは長距離を高速道路で運ばれる。これまで外に出たことのない彼女たちにとってその移動は恐怖であり、同時に、初めての外の空気だ。

処理場には、午後になると翌朝に殺すためのニワトリが次々と運び込まれる。その日に殺す予定であったニワトリであっても、定時になると処理場の作業は終了し、殺しきれなかったニワトリを翌朝まで放置することもある。このような現状は私たちも最近まで知らずにいたが、改善したいと願う内部の方の告発により、鶏舎や処理場の実情を知ることができるようになった。
命の終わりが翌日に繰り越しとなった彼女たちは、コンテナに乱暴に入れられたまま、一晩屋外に放置される。
死んだニワトリも各所に見られるが、翌朝までそのままだ。コンテナの高さは低く、ニワトリたちは真っ直ぐ立つことも出来ない。不自然な体勢、折り重なったまま動きが取れないニワトリも、そのままの体勢で夜を越すことを強いられる。コンテナは積み上げられ、上から他のニワトリの糞尿や割れた卵が降ってきては下のニワトリの体を汚し、またその下のニワトリを汚し、地面を汚す。熱帯夜や湿気の多い日には糞尿や卵が泡立ち、うじ虫がわく。真冬の零下の中では、凍死もするだろう。
「夜間放置」されるのは採卵鶏だけだ。食肉用に処理されるニワトリはこのような扱いは受けない。つまり、価値の低い彼女たちは、多少死んでも良いと思われているということだ。肉用鶏は、保管時間が短くなるように計画的に処理場に連れて来られるが、採卵鶏は人間の都合の方が優先される。時間をきちんと計算し、計画的な出荷ーさえすれば、この「夜間放置」の悲劇は解決するはずだ。しかし、採卵鶏たちは、それすらしてもらえない。


内部告発によって明らかにされた採卵鶏たちの最後の一夜の姿、処理場の保管場所の状況は、なんというか、ホラーとしか言いようがない。こんな地獄が私たちの身近な場所に確かに存在するのだ。
そして翌朝、彼女たちに待っているのは、意識のあるまま首を切られ、そのあと暴れるのを防いだり放血を早めようと電気ショックを与えるという、多くの国が禁止する方法での命の終わりだ。
個人がケージフリーの選択を。
これが、日本人が年間平均329個食べているという卵生産の実情だ。
肉食とは、人が動物を一方的に管理搾取することだ。だからこそ、高い動物の福祉(アニマルウェルフェア)を提供する義務があると思う。バタリーケージは、EU、スイス、ニュージーランド、ブータン、インドや米国の6つの州で禁止されている。国レベルだけでなく、世界中の多くの企業(日本支社を除くマクドナルドやスターバックス、サブウェイ、ケロッグなど)が、ケージ飼育自体を廃止していっている。この「ケージフリー」の流れは今や海外の先進国では一般的で、すでに欧米のスーパーの棚には放牧の卵ばかりが並び、2025年までに、欧米からはケージ飼育の卵は概ねなくなると予測されている。南米、南アフリカ、韓国などもケージフリーへの切り替えを始めている。一方、日本は今のところ実効性のある規制はひとつもなく、国際基準に違反した行為すらも放置されている状況だ。
とはいえ、変化もある。平飼い卵を置くスーパーが多くなってきたことだ。コーヒー商品や製菓販売大手のネスレは日本でもケージフリーにすると発表した。この流れを加速する力を、私たち消費者は持っている。なぜなら、お客様の声として意見をすることや購入する商品を変えることで、スーパーにケージ飼育の卵を並べることをやめさせることができるからだ。そして、ニワトリを救うためには、卵の消費量を減らすことが最も近道だ。毎年329個も卵を食べる必要が、本当にあるのだろうか……。
バタリーケージによって生産させられた卵や加工食品を口にしないという選択。そのことで日本1億7600万羽の採卵鶏の苦悩を、どうか減らしてほしい。
◉私たちにできること
・放牧(放飼い)の卵を選ぼう
・スーパーにケージの卵を売らないでと意見を届けよう
・あなたの卵の消費量を見直そう
・卵を使わないマヨネーズに変えよう
・天ぷらなどのつなぎに卵を使うのをやめてみよう
・卵を使わないレシピにトライしよう
・地元の国会議員に動物愛護法でニワトリも守ってほしいと伝えよう
2 ブタ

拘束され、産み続ける豚たち
子どもを産み続けるためのメスの豚たちが、妊娠ストールという自分たちの体とほぼ同じ大きさの鉄の柵に入れられて拘束飼育されていることは、以前本誌でも紹介した。この拘束飼育法はEUをはじめ多くの国と地域ですでに禁止されており、中国やタイの大手食肉企業も廃止を宣言しているが、日本では未だ廃止する企業がない。
妊娠ストールに入れられた母豚たちは、ほぼ身動きがとれない。顔を動かせるのは左右45度程度のみで、真横を向くことすら出来ない。
本来豚は、日中の75パーセントを探索し、遊び、泥浴びをしたりして活発に動き回る動物であることが知られている。にも関わらず、この妊娠ストールの中では、彼女たちは何一つやることがない。できることといえば、時々落ちてくる餌を食べること、水を飲むこと、目の前の鉄棒を噛みつづけること、食べ物がないのに口を動かし続けることだけだ。しかも、できるだけ少量の餌で済まそうとする生産農家は、この餌を制限するところもある。
子ども産み続けさせられる彼女たちにとって、種付けされる数日間と、赤ちゃんを産むために分娩ストールに移動する瞬間だけが、狭い妊娠ストールから出ることができる唯一のチャンスだ。しかし、授乳期間に入れられるこの「分娩ストール」も、妊娠ストールと同じように身動きが取れない拘束檻だ。
拘束されたまま子育てをするということはどういうことか。彼女たちは、目の前で自分の子どもたちが人間に掴まれ、無麻酔で尻尾と犬歯を切られ、腹を切られて去勢され、恐怖と苦痛で悲鳴を上げ、動きが鈍り、時には死んでしまうのを、ただなにも出来ずに見守らなくてはならないということだ。必死で抗議の声をあげたり、飲み水を飛ばしたりするが、子どもを守ることは出来ない。身動きができない体勢で3週間動けないままわが子にお乳を与えた後、子どもたちには二度と会えなくなる。そしてまた、妊娠ストールに戻され、人工授精をされ、子を孕ませられる。
海外で妊娠ストール飼育が次々に廃止されたのは、存在を知った消費者などが、やめてほしいと声をあげた結果、企業や国が動いたからだ。日本ももう、彼女たちの扱いに無頓着でいることを止める時ではないだろうか。

◉私たちにできること
・放牧された肉・牛乳に切り替えよう
・スーパーに放牧の肉・牛乳を置いてほしいと伝えよう
・肉の消費量を減らそう ・大豆ミートを使ってみよう
・牛乳を豆乳やライスミルク、アーモンドミルクに切り替えてみよう
・乳成分を含まない食材に切り替えよう
・地元の国会議員に動物愛護法で豚や牛も守ってほしいと伝えよう
3 牛

立ち尽くすか、横になって寝返りを打つか
乳牛を飼育する日本の酪農場の73パーセントが、牛に一切の運動をさせず、24時間短い鎖などでつないだまま搾乳しているという(畜産技術協会)。乳牛たちは本来の8倍〜12倍の量の牛乳を搾り取られるため、カルシウム不足や第四胃変異や乳房炎などの病気になりやすい。
ほぼ自由を奪われている彼女たちは、ひたすら立ちすくし、横になっては寝返りを打ち続けて過ごす。
牛は本来、仲間同士で毛づくろいをするが、繋がれている牛たちにその自由はない。薄いマットや少量のワラが敷いてあろうが、コンクリートの上に長時間い続けることには困難を伴う。関節が硬い床に当たり擦り傷ができたり、細菌に感染して腫れたり、腫瘍化したり、壊死したり。寝起きを何度も繰り返すたびにそれはひどくなる。この関節炎は繋ぎ飼いでこそ顕著で、そのストレスによって牛が痩せていくこともある。これは、乳牛を早期に殺さなくてはならなくなる主要原因になっている。 牛舎内だけで飼育される牛たちは、足腰の筋力が衰えている。そのため、コンクリートの床で滑って股関節を脱臼したり、股が開いてしまって立ち上がれなくなることも多い。これを予防するために、酪農場によっては、足かせで牛たちの後ろ足をしばり、股が開かないようにする。
牛の糞尿の量はとても多いため、狭い牛舎内はすぐに糞尿だらけになり、牛たちはたいてい糞尿にまみれている。蹄の間に菌が入り込み蹄病にかかり、出血したり、足を引きずって歩く跛行状態にもなる。それに、繋いでいようといまいと、牛舎内だけで1本の足に140キログラムもの体重がかかる巨大な牛を飼育し、異常な量のミルクを絞り続けることには無理があるのだ。
◉私たちにできること
・放牧された肉・牛乳に切り替えよう
・スーパーに放牧の肉・牛乳を置いてほしいと伝えよう
・肉の消費量を減らそう ・大豆ミートを使ってみよう
・牛乳を豆乳やライスミルク、アーモンドミルクに切り替えてみよう
・乳成分を含まない食材に切り替えよう
・地元の国会議員に動物愛護法で豚や牛も守ってほしいと伝えよう
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