世界最貧国の一つ、西アフリカのシエラレオネ。
苦境や偏見と闘いながら、大きな夢に向かって踊り続ける若者たちがいる。
写真・文/オリビア・アクランド
Photo & Text by Olivia ACLAND
一途に追いかける ダンスへの想い
西アフリカ・シエラレオネの首都フ リータウン(自由の町)は、北米などの 解放奴隷のための町として、18世紀後半にイギリス人によって建設された。 1991年からは 10年もの間内乱が続き町は激しく破壊された。今もその傷跡は残っているが、山の斜面から海に 向かって広がる町は、その名前にふさわしく、自由な活気にあふれている。
ダンスチーム「ラフェスト・バウンズ(荒れ地)」がこの町で踊るように なってから、もう5年になる。そもそもアクロバティック・ダンスとアフロ・ ダンス(注1)を得意とする2つのチ ームだったのが、コンテストで競い合ううちに合体した。「そうすればチャ ンスも増えるからね」と、スリム(17歳)は、野心的な笑みを浮かべる。
スリムは7歳のときから踊ってい る。祖父がプロのダンサーで、彼にアフロ・スタイルの音楽や動きを教えてくれた。9歳ぐらいから学校や結婚式 で踊って絶賛され、ダンサーになろうと決めた。しかし父親はダンスでは食 べていけないと反対し、数年後には彼 を家から追い出した。
現在のメンバーは10人。テンベ地区の急斜面に立つアパートに、全員で暮 らす。彼らは生活のすべてをダンスに 捧げる。日曜を除いて、週6日、午後2時から7時まで練習する。ときには近所の屋根の上で練習することもある。国立競技場、ゴミゴミとした家並み、大西洋……。屋根の上からは、町全体が見渡せる。近所の人が出てきて、声援を送ってくれることもある。
収入は2か月に 1回開かれる大会の賞金が大きい。昨年は 3回優勝し、1回で100ドル~300ドル(約1万 ~3 万円)(注2)を稼いだ。賞金は全員で分ける。しかしこれでは 日3度の食事はとれず、満足に食べられな い日もある。だから彼らは結婚式に呼 ばれると喜ぶ。たとえ謝礼はわずかで も、そこには食べ物があるから !
ストリート・ダンサーに向けられる偏見も、悩みの種だ。彼らを犯罪や、 薬物やギャングに関わっていると思い 込んでいる人も多い。路上で踊ってい るときに、警官がやってきて彼らを追 い散らすることもある。さらに通行人 が「怠け者 !」「仕事をしろ !」と罵 ることもある。しかし彼らは誰も犯罪 に関わっておらず、飲酒も喫煙も薬物もしていない。そんな体に害になるものを摂れば、ダンスにも悪影響を及ぼ すと、全員が信じている。
「僕たちは国内で等になって、世界中に行ってダンスを見せたいんだ。僕たちは貧乏だし、偏見にさらされてい るけど、絶対にあきらめないよ」と、スリムは誇らしげに言った。 (構成・翻訳/野口みどり )