多発する米軍内部の性暴力
撮影:メアリー・カルヴァート(Zuma Press)
米国陸軍特技兵だったナターシャ・シュエット(21才)は訓練中に教官からレイプされ、周囲の嫌がらせにも屈せずに告発した。教官には他にも4人の女性へのレイプが発覚し、彼は4年間の懲役刑を受けた。被害を告発した彼女の勇気を陸軍は称え報奨金を与え、性的暴行防止対策局は彼女を取り上げた訓練ビデオを配布した。彼女は現在も軍役についている。
医師のナンシー・ルトウィックは軍隊での性暴力被害の経験や精神的な障害をかかえる女性のための医療室を開設した。
ブライタニー・フィンテルは海軍でミサイル駆逐艦に勤務中、下士官からレイプされそうになり、叫び声をあげて撃退した。被害届けを出したが「適応障害」と判断され、船を降ろされた。その後PTSDにより除隊。「軍隊では被害者はレイプ犯より頭がおかしいとされる」と、自宅で涙ながらに語る。彼女のPTSD介助犬はインタビューの間、彼女のそばを離れなかった。
1年前、キャリー・グッドウィンは懲戒除隊により自宅に送り返され、5日後にアルコールの過剰摂取により自殺した。娘の死後、父親のゲイリーは娘がレイプにあい、指揮官たちに報告した後、激しい報復にあったことを知った。彼女が残した日記には、リストカットするイラストなどが描かれ、心の苦悩がうかがわれる。
キャリーの死によって家族の心はバラバラになり、ゲイリーの他の2人の子どもと孫たちは彼の元を去った。今、彼はキャリーの思い出と日記、それに遺灰とともに暮らす。
訓練中に教官からレイプされ、これを告発したことにより陸軍から称賛されたナターシャは、今も軍役についているがPTSDの苦しみから逃れられない。レイプを受けたあと、裏庭に作った温室にこもり社会や他人との交わりを避け、精神の安定をはかっている。
コニー・スー・フォスは陸軍に服役中にレイプされ、除隊した今もPTSDに苦しめられている。苦しいときは拳で窓ガラスを打ちつけるので、手や腕には、その時残った傷跡がいくつも見られる。夜間の歯ぎしりもひどく、臼歯も抜けてしまった。
陸軍でレイプされたコニーはPTSDに苦しんでおり、除隊した今も、自分の身の周りのことや、娘の世話が十分にはできない。
エリシャ・モロウとティファニー・バークランドは沿岸警備隊の基礎訓練中に同じ中隊長によりレイプされた。エリシャは彼から逃れるために自殺未遂の偽装までした。彼女たちは除隊を恐れて被害を届けなかったが、3人目の犠牲者と出会って告訴することにした。裁判となってしばらくして、同じ中隊長にレイプされた4人目の被害者を知った。二人はもっと早く行動を起こさなかったことを悔やんだ。ワシントンD.C.で「MST (軍隊内性的トラウマ)に関する真実と正義を求めるサミット」に出席した後、ホテルの部屋に座る二人。
海軍の性暴力被害者たちがサンディエゴのブリタニーの家へ集まり、海軍での彼女たちの性的暴行体験を記したバナーを作った。その夜、彼女たちはバナーを海軍駐屯地入口正面の歩道橋に吊り下げた。メリッサ・バニアは加害者の男性がその後も軍役についているのに、彼女がどれほどPTSDにさいなまれているか書いている。
ジェニファー・ノリスは、21才で空軍に入隊した後、新兵採用係によって麻薬を打たれレイプされた。訓練学校では教官の性的暴行を撃退し、司令官に言い寄られるのもかわした。その後、ジェニファーはこれらの行為を軍隊に報告し、加害者が処罰されるのを見届けたが、職場の同僚たちから継続的な報復を受けることになった。現在、彼女は性的なPTSD のため働くことができないが、自宅のあるメイン州で軍隊内レイプ被害者救援センター設立を提唱者し、被害者のカウンセリングを行っている。PTSD介助犬のオニクスと、性暴力被害者仲間の家の前で。
ジェニファーと同じ性暴力被害者のジェシカ・ヒンヴスが夜更けまで煙草を吸いながら体験を話し合う。ジェシカは空軍の戦闘機整備工として勤務していた時、同じ飛行中隊の隊員にレイプされた。彼女の加害者に対する訴訟は、司令官の指示により裁判開始の前日に取り下げられた。
ジェニファーはワシントンD.C.の国会議事堂の国家軍事委員会の公聴会で証言したが、空席ばかりが目立つ公聴会とも呼べないようなものだった。これはテキサス州サンアントニオのラックランド空軍基地での訓練指導官の性的不品行を論ずるために開かれていた。
ジェニファーは公聴会で証言を終えると、あまりの反応のなさに泣き崩れた。米国軍隊における性的暴行被害者を支援するNGOのナンシー・パリッシュ会長が駆け寄って、彼女を慰めた。
陸軍で勤務中に自殺したソフィ・シャンプのお墓の前で死を悼む母スージー。ソフィは陸軍でくり返しレイプされていた。