2016年の参院選で18歳からの投票が可能になった際、そんな18歳の「君たち」に向けて大田さんが寄せてくださった言葉を紹介します。語り口調で包み込むようなあたたかな言葉の中には、とはいえ安倍政権下の日本への厳しい警鐘と共に、未来への希望が含まれています。選挙権を持つ「全ての」人々へのメッセージ。ぜひお読みください。
(2016年2月号掲載)
選挙権を持つ18才の君たちへ
君たちこそに、日本の未来を創ってほしい。
大田昌秀 (元沖縄県知事)
18歳から投票できることになり、君たちもいよいよ大人の仲間入りが出来るんだね。君たちが一票を巧みに投ずることによって、世の中を、いや世界を変えることさえできる。何しろ若い君たちこそが国の将来を決めることができる役者だから……。とはいえ、大人の世界は複雑怪奇でなかなか思うに任せないところがあるので、油断は禁物ですよ。周知のとおり、昨今の日本の政情は、安保関連法制が象徴的に示すとおり、ひどく危機的状況にあるから尚更だ。
日本国憲法は、明確に戦争をしないことを規定しているにもかかわらず、現政権は、戦争をする方向に憲法を改悪すべく企んでいる。もしその企図が実現すると、真先に戦場に駆り出されるのは、まさに君たち若者に他ならない。
そのことは、さる沖縄戦が見事に例証している。沖縄戦が始まると、軍官民の共生共死の一体化の実現という掛け声で、県下の12の男子中等学校と10の女学校のすべての学校の生徒たちが有無を言わせず戦場に駆り出された。しかも何らの法的根拠もないままにである。そして過半数が無残な死を遂げるに至った。
ちなみに1945年6月23日に義勇兵役法が制定公布され、男性は15歳から60歳まで、女性は17歳から40歳までの人たちを戦闘員として戦場に送り出すことが初めて可能になったのである。
今のところ、まだ憲法は変わっていないけど、それでも安全保障関連法の成立で自衛隊は世界のどこにでも出動して米軍と共に戦闘ができる事態となっている。そのことは、若い君たちにとっては、決して他人事みたいに看過してはならず、常時用心せねばなるまい。そのためには、しっかりと過去の歴史を学ぶ必要がある。とりわけ日本が近隣諸国民に与えた加害の責任を忘れてはならない。
繰り返して言うと、君たち若者こそが未来の日本を創り出す当事者である。政治はいやだ、とそっぽを向いても、政治は疑いようもなく君たちの人生そのものをからみ取ってしまうにちがいない。そのことを念頭に入れて、誰しもが人間らしい心豊かで明るい、楽しい生活ができる国作りに邁進してくれることを切に期待して止まない。
そのためには他人の痛みを自分の痛みとして甘受できる、優しい感性が不可欠だ。
ちなみに政府は、日米安保条約は国益だと鼓吹しながら、百害の原因たる米軍基地を一方的に沖縄だけに押し付けて憚らない。国の将来を背負う若い人たちは、こうした政治のありように無頓着であってほしくない。(了)
合わせてお読みください。
戦争の記憶「軍隊は人を守らない」という沖縄の教訓 (大田昌秀元沖縄県知事 )
(掲載号2016年2月号 特集「安保法制に命の舵は渡さない」26人の提言)
文(敬称略)/山田洋次(映画監督)、大澤真幸(社会学者)、綿井健陽(映像ジャーナリスト・映画監督)、池内了(天文学者・宇宙物理学者)、伊藤真(弁護士・伊藤塾塾長)、森達也(ドキュメンタリー映画監督・作家)、井筒高雄(元陸上自衛隊レンジャー隊員)、大石芳野(フォトジャーナリスト)、むのたけじ(ジャーナリスト・文筆家)、板垣雄三(歴史家――文明史・平和研究・中東研究)、大田昌秀(元沖縄県知事)、想田和弘(映画作家)、諏訪原健(SEALDs)、伊藤千尋(国際ジャーナリスト)、岩上安身(ジャーナリスト)、加藤登紀子(歌手)、金平茂紀(TVジャーナリスト)、髙橋邦典(フォトジャーナリスト)、森住卓(フォトジャーナリスト)、豊里友行(写真家・俳人)、広瀬隆(作家)、豊田直巳(フォトジャーナリスト・ビデオジャーナリスト)、熊切圭介(写真家)、福田幸広(動物写真家)、平山ガンマン(福島県飯舘村、犬たちの保護施設「福光の家」代表)
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