子どもたちを連れて、家の下の谷川に水遊びに出かける森岡尚子さん。2013年7月3日。写真はべて沖縄県東村高江
子どもたちを連れて、家の下の谷川に水遊びに出かける森岡尚子さん。2013年7月3日。写真はべて沖縄県東村高江 Photo by Takashi MORIZUMI

沖縄本島北部に位置する東村高江は、人口160人ほどの小さな集落だ。やんばる(山原)と呼ばれる北部特有の亜熱帯の森に囲まれたそこは、生き物の楽園であり、人々は自然と繋がり合って生きている。この森と営みがいま、米軍と日本政府によって壊されはじめている。上空をオスプレイが飛び、その騒音は人々の生活を脅かし、生き物は自然のサイクルを失いつつある。

写真・話/森住卓 まとめ/丸井春(本誌編集部)

Photo by Takashi MORIZUMI

輝く命の森で

沖縄本島北部に広がるやんばるの森は、イタジイを主木として1000種類を超える植物が深い森を形作り、多様な生態系を生み出している。森には、国の天然記念物であるヤンバルクイナをはじめ、ノグチゲラやヤンバルテナガコガネなど地球上でここにしか存在しない固有種や希少種、絶滅危惧種が多く生息し、東洋のガラパゴスとよばれ、未発見のまま絶滅する生き物もいるという。

親たちが田植えの間、こどもたちは用水路に入って小魚を捕ったりどろんこ遊びに夢中だった。2012年8月17日
親たちが田植えの間、こどもたちは用水路に入って小魚を捕ったりどろんこ遊びに夢中だった。2012年8月17日 Photo by Takashi MORIZUMI

東村高江集落には約160人が暮らす。パインや野菜を作り、カフェを開き、自営業を営み、思い思いの方法で日常を繰り返す。子どもたちは裸足で駆け回り、谷川で魚捕りをし、水浴びをし、木登りをして遊ぶ。彼らは自然の中で何が危ないのかをよく知っている。大人が傍目で心配するほどけがをしない。自然の中で暮らすこことで生きる力を学び取っているのだ。朝は鳥の声で目を覚まし、夜は満点の星が空を彩る。自分たちの力で生きている人たちは魅力的だ。

民家のすぐ近くに現れたヤンバルクイナ。2016年6月16日
民家のすぐ近くに現れたヤンバルクイナ。2016年6月16日 Photo by Takashi MORIZUMI

やんばるには、米軍の北部訓練場(ジャングル戦闘訓練センター)という巨大な米軍施設がある。その一部を日本に返還するかわりに、高江の集落を取り囲むように米軍のヘリパッドを新たに6つ造る計画を日米両政府が押し出したのは輝く命の森で1996年のこと。その後、住民らは「オスプレイの離着陸帯ではないか」と危惧したが、日本政府は「何も聞いていない」と繰り返した。住民らは2007年からヘリパッド反対のための座り込みを開始。それは1年365日、休むことなく今も続いている。しかしすでに2か所のヘリパッドは完成し、オスプレイが配備され、最近になり、その訓練はますます激化した。夜遅くまで低空飛行を繰り返すオスプレイの爆音で体調を崩す人が増え、夜眠れない子どもたちは学校に行けなくなり、村から避難する人もでた。

新川川の淵でターザンごっこ。子どもたちは次々と遊びを作り出してゆく。遊びの天才だ。2009年7月2日
新川川の淵でターザンごっこ。子どもたちは次々と遊びを作り出してゆく。遊びの天才だ。2009年7月2日 Photo by Takashi MORIZUMI

野生生物への影響も見られはじめている。調査によると、絶滅危惧種のノグチゲラは、1組のつがいが20〜30ヘクタールを行動範囲にしている。本来なら、この範囲内で1組が2〜3個の卵を産み、1羽ほどが成鳥し次世代に命をつなぐが、最近の調査によると、狭い範囲に数組もつがいが存在し、1組が1個の卵しか産まず、その1羽さえ成鳥にならない事態が起こっているという。オスプレイの騒音でパニック状態になっているのではないかと調査員は話す。

お母さんと子供たちで高江のフラを練習していた。衣装を着けた子どもが森の中から飛び出してきた。まるで妖精が飛び出してきたようだった。2013年9月15日
お母さんと子供たちで高江のフラを練習していた。衣装を着けた子どもが森の中から飛び出してきた。まるで妖精が飛び出してきたようだった。2013年9月15日 Photo by Takashi MORIZUMI

住民らは残り4つのヘリパッドの建設を食い止めようと座り込みを続けるが、7月22日未明、安倍政権はここに、全国からの機動隊約500人を集結させ、強行的に工事を再開させた。

高江でカフェを営んでいた安次嶺現達さん一家。13年前、自然豊かな高江で子どもを育てたいと移住してきた。家の周りではヤンバ ルクイナやニグチゲラが姿を現す。安次嶺さんは今年6月、オスプレイのあまりの騒音で、子どもたちを避難させる決断をした。今は離れて暮らしている。2008年7月25日
高江でカフェを営んでいた安次嶺現達さん一家。13年前、自然豊かな高江で子どもを育てたいと移住してきた。家の周りではヤンバルクイナやニグチゲラが姿を現す。安次嶺さんは今年6月、オスプレイのあまりの騒音で、子どもたちを避難させる決断をした。今は離れて暮らしている。2008年7月25日 Photo by Takashi MORIZUMI