ことし9月14日、第24回「県民健康調査」検討委員会が福島市で開催された。その際に配布された資料の中に、事故当時妊娠していたり、出産直後だった女性たちを、事故4年後に追跡調査をした「平成23年度『妊産婦に関する調査』フォローアップ調査結果報告」(PDF)があった。そして「放射線の影響で子どもの健康に不安」と答えた人は79・5%にのぼった。この報告書は母親たちの心の叫びを記録しているのではないか。一部を紹介する。
文・写真/広河隆一
今回配布された資料には「平成23年度『妊産婦に関する調査』フォローアップ調査結果報告」と「『県民の声』とりまとめ」があり、メディアや一般参加者に配られたが、その内容が報道された例はほとんどない。「県民の声」は「おしどりマコ・ケンの実際どうなの」に報告されているので、ここでは「妊産婦に関する調査」を紹介しよう。
この調査は、福島県立医科大学によっておこなわれたもので、対象になったのは、2010年8月1日から12年4月8日の間に出産した人7252人(流産、中絶、死産された方を除く)。彼女たちに対して、事故からおよそ4年後の15年9月に、記入式のアンケート用紙が郵送で配布され、回答者は2554人(全配布数の35・2%)だった。検討委員会ではその結果が資料として提出されたのである。
母親の94%が今も放射能に不安
「放射線の影響について不安なこと全てにチェック印を記入してください。(選択肢は水、食品、子どもの外遊び、子どもの健康、偏見、遺伝的な影響、その他)」という問いでは、選択肢のひとつまたは複数にチェックし、放射能に対しての不安を覚えていると答えた人は、実に94・2%にのぼった。
そして母親たちが不安を覚えている項目を多い順から並べると次のようになる(有効回答2406人)。
「子どもの健康」79・5%(1913人)
「食品」50・5%(1216人)
「偏見」44%(1059人)
「水」43・3%(1041人)
「子どもの外遊び」39・5%(950人)
「遺伝的な影響」35%(842人)
この回答を地域別にみると、「偏見」「水」「遺伝的な影響」について「不安」と回答した割合が最も高いのは、いずれも相双地区と呼ばれる原発隣接地区だった。

今、福島のメディアで不安の声が表立って伝えられることはそう多くない。だから、「福島県内には不安を感じている人は、ほとんどいなくて、みんなもう安全な状態になったと感じているはずだ」と信じている人は非常に多い。この人々は、外部の人が不安を煽るから風評被害がもたらされるのだと信じているのだ。福島民友新聞をはじめとするメディアもそのような論調である。しかし実際には福島の母親たちは、非常な不安にさいなまれていることが、県立医大の調査でも明らかになったのだ。
政府や県による強硬な「安心・安全キャンペーン」そして「帰還キャンペーン」は、母親らの不安の声を消し去っていく。大事なのは母親たちが不安を語らないのは、実際に「不安がない」せいではなく「不安の気持ちを外に出せない」ということなのではないのか。このアンケートはそのことを、如実に物語っているように思う。
4人に1人の子どもが入院、特に多い肺炎
誕生した子どもの健康状態についてはどのような回答が寄せられたのだろうか。アンケートには、「お子様はこれまでに入院を要した病気にかかったことがありますか?」という項目がある。「これまでに入院を要した病気にかかったことがある」割合は24・7%で、4人に1人の割合だった。
入院時の主な疾患は多様だが、肺炎が群を抜いていて多く、162人にのぼった。つまり事故の前後に産まれた子ども162人が、肺炎で入院していたのだ。次いで、RSウイルス感染症(101人)、気管支炎(60人)、「ロタウイルス感染症」(44人)、「胃腸炎」(41人)、「気管支ぜんそく」(41人)、「川崎病」(同32人)と続く。
「出産した児の健康状態・不安について」の設問に、ひとつでもチェックした人の割合は 70・8%で、その中でも「病気」が最も多く、次が「こころと身体の発達」だった。
放射線影響への心配根強く
このアンケートの最後には「自由記載欄」があるが、そこに記入した人は383人。ここに書かれた訴えで最も多い項目から並べると次のようになる。
「胎児・子どもへの放射線の影響の心配について」「放射線についての情報発信や調査結果の公表への要望について」「甲状腺検査への要望について」「本人の精神的不調」「外出・外遊びでの放射線の心配」「情報の信頼性・不足に対する不安や不満」「離乳食・食物への放射線の影響について」などと続き、そのあとは「検査・健診全体への要望」「育児相談」「除染・遊び場の確保への要望」「育児支援サービスの充実の要望について」「家族離散・避難に対する不安や不満」「経済的支援の要望」「心のケアや相談窓口の充実の要望」「水への放射線の影響についての心配」「内部被ばく(ホールボディカウンター等)検査の要望」「次回妊娠への放射線の影響への不安について」などの訴えもあった。
甲状腺検査「必要ない」は3%
かつて、DAYS JAPANでは、福島の母親440人に対して原発事故後の健康アンケートを独自でおこない、冊子『福島原発事故後の生活・子どもの健康 福島の母440人の証言集』(2 01 4年8月号)にまとめた。これは県立医科大の調査とほぼ同じ時期におこなったものであり、赤裸裸な母親たちの不安や悲鳴が込められていた。
このとき「子どもの健康について不安なことは何ですか」という質問に対して、60%が「将来の体への影響」と答えている。
そして今年5月におこなった「福島の母 354人本音アンケート」(2 0
1 6年7月号)では、子どもの食べ物の質問で「特に気にしていない」と答えた人は23%で、「県産品は食べさせない」「何らかの選択をしている」を合わせると77%になった。また「放射能に対する不安」については、「不安をあまり感じていない」と「不安は全くない」を合わせると19%、残りは「不安を強く感じる」が29%、「不安を少し感じる」は52%だった。甲状腺検査についても、「必要ない」と答えた人は3%にとどまった。
誰が母親たちの不安を非科学的だと笑えるだろうか。チェルノブイリでも他の場所でも、不安が正しかったことが証明された例は多い。
かつてウクライナの放射線医学センターを訪れた時、そこのタルコ医師の語った次の言葉が思い起こされる。彼は次のように言った。
「チェルノブイリ汚染地区で人々に起こっていることは、体内被曝の壮大な人体実験です。必要なのは『実験』を続けることではなく、子どもたちを一刻も早く汚染地区から移住させることです」